

6時半に起きて、遅くとも8時には家を出る。
鬱。昨日もほぼ寝れてない。
深夜二時頃に目が覚めて、激しい動悸。無理だ。無理だ。
三角形の貸家。斜め上、すぐ近くには東北自動車道。
アトピーの薬のパウダーが固まって、白くなっている洗面所の床。
水道の元栓を落とすのを忘れていた。
凍って水が出ない。毛馬内の水道屋の人に電話する。
だから鍵を開けたまま、出社。
田舎に泥棒はいない。
雪景色が美しいなんて、嘘だ。
それはここでの生活を知らない人間の、妄想である。
何故に苦しいのか。雪は私を苦しめるのか。
市道の脇に北限の桃の果樹園。あちらこちらに桃。
雪は桃を隠している。
朝の掃除が始まる。挨拶は笑って。笑って。
お局の放つあの空気。ああ嫌だ、嫌だ。
トイレ掃除の当番。
気だるく青い便所クリーナーを使う。
ブラシを持つ手に力が入らない。形だけでも掃除をする事は大切だ。
鏡の脇に貼られたカレンダー。JAの文字が揺れる。
朝礼。今日の予定は多い。
何とか息を吸って、やっと息を吸って一日をはじめる。
大湯方面へ共済の集金。ついでに銀行へ。
動悸で人と話すのもやっとだ。
金を受け取り、複写の領収書を書く。
建付けの悪い玄関、隙間風がとかく寒い。
朦朧としながら車の運転。
一人になれるから、車に乗ってる時間が一番好き、というより楽だった。
ハイエースの煩いエンジン音。
馬力の無いアクセル。工具箱が後ろの方でガタガタ鳴っている。
戻りたく無いが、事務所へは戻る必要が。
共済の処理をして、次の仕事へ。
思えば第一、何故に日商簿記一級を取ったのかという事を考え出す。
『難しい資格を取れば、良い仕事につける』
それだけだった。自分の意志があるようで全く無い。無呼吸の選択。
大学時代の先生が言っていた。
『この資格を取った人は全員人生が変わってる』と。
その変わった人生が苦痛であった。
重宝がられると言うのは、また別な苦しみを生む。
領収書の束。開く会計ソフト。数字で全てが整理されていく。
僕の頭の中は永遠と決算が出来てない。
あちこちにある色んな会計基準。
真実性の原則
正規の簿記の原則
資本取引・損益取引区分の原則
明瞭性の原則
継続性の原則
保守主義の原則
単一性の原則
原則も何もかも真っ平だが、辞められない。
人が一人いなくなると、多大な迷惑がかかる。
継続性の原則だ。保守主義の原則だ。単一性の原則だ。
昼休みは同い年の後輩と一緒にドライブインへ。
車好きの奴の、高いプリウスに乗る。
今日は然程の雪では無いが、根雪がびっしり。
県道が真っ白だ。
赤い中華料理屋の看板。
遠目に見える商店街のアーケード。
いつもの安いセルフのガソリンスタンド。
向かい側にあるあんとらあ。
知ってるモノと知ってる人ばかりで嫌になる。
ドライブインの駐車場
大量に止まる大型トラック
多分これから盛岡へゆくのだろう
良いなあ
私も行きたい
上田病院のある
第二の故郷・盛岡へ
いっその事、もっとアトピーが悪くなって
入院したらこの環境から
角が立たず離れられる
もっと具合が悪くなった方が良いのかも知れない
病気が欲しい
病気が欲しい
病気が欲しい
うだうだと色んな事を考えながら
炒飯を食べ終えて事務所へ戻る
きりたんぽFMが陽気に午後を知らせる
観光キャンペーンも進めなければいけない
裏の会議室へ行って
書類の梱包
パートのあの人が現れて手伝ってくれる、が
いつものように色んな愚痴やらを永遠と喋るから
一人にして欲しいがそれは言えない
出張の復命書もまだ書いてなかった
部会の日程調整もしなきゃ
件の予算も組まなきゃ
あそこの金融機関へ
挨拶へ行っておかないと
労働保険の基礎算定も進めなければ
.・・・
出世なんてするもんじゃない
仕事は出来ない方が幸せだ
何事にも鈍感で
周りの目を気にせず定時で堂々と帰れる
あの人が羨ましい
僕もあんな図太い人間になりたかった
陽が落ちる
少しばかり雪が大粒になってくる
大舘の心療内科へ
この雪道。飛ばすのは危険だ。
診療室で色んな話をしても
「最近は何でもかんでも鬱と言う」
とあしらわれる。
薬を飲んでるのを知り、母は言う。
「おかしくなったと思われるから、人には言えない」と。
何事も、人目を気にしないと生きていけない。
そして皮膚の調子が悪すぎて、今日も卓球が出来ない。
いとくで買い物をして真っ直ぐ帰る。
薬を塗って、飲んで寝るだけ。
僕は月曜日の雪を知っています。
降り止まない雪を知っています。
僕は、月曜日の雪を知っています。
今も見えるんです。月曜日の雪が。
- 作詞者
鈴木 諭
- 作曲者
鈴木 諭
- ミキシングエンジニア
鈴木 諭
- マスタリングエンジニア
鈴木 諭
- ギター
鈴木 諭
- ボーカル
鈴木 諭

鈴木 諭 の“朗読・月曜日の雪 (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)”を
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犬の川 (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)
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じゅんさいになった猫 (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)
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泣いているのはなまはげです。 (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)
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朗読・帰郷 (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)
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裏日本 (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)
鈴木 諭
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朗読・生きてて良かった。 (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)
鈴木 諭
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アトピーのうた (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)
鈴木 諭
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盛岡、雪。上田病院。 (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)
鈴木 諭
- ⚫︎
朗読・月曜日の雪 (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)
鈴木 諭
- 17
月曜日の雪を知っている (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)
鈴木 諭
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朗読・27年前 (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)
鈴木 諭
- 19
私は婆さんの死を知らない (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)
鈴木 諭
- 20
アンコール (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)
鈴木 諭
- 21
夏の風はいつも苦しい (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)
鈴木 諭
2024年7月20日に工房ムジカにて行った、初・独演会『27年前の私に送る秋田の詩たち。』の模様を全編音源化。当日は酷い雷雨。演出かのように入り込む雨と雷の音。ライブの内容も圧巻。
店主・葛原りょう氏はライブ後に、以下のように書き残している。
「こんなに全身血の気の全力で引くライブは初めてだ。
圧倒的な虚無感。語りの冴えが痛ましく、リアルの極み。
月曜日の雪。犬の川。亀の串刺し、ばあちゃんの遺影。
上田病院。アトピーの歌。怒涛のギターの畳みかけ。
言い尽くせぬライブだった。
たしかに梅雨明けの日暮里は雪国だった。」
筆舌に尽くしきれぬ地獄の世界、心して体感して貰いたい。
いざ、地獄の世界へ。
アーティスト情報
鈴木 諭
地獄の詩世界と秋田弁ブルースを唄う、ただの秋田県人。じゅんさい王国(旧・山本町)出身。2023年頭より弾き語りを本格始動し、代表曲である『犬の川』はライブ演奏を通し多数の人間から「これは犬の楢山節考だ」などと激賞を得た。また秋田弁ブルースは「何を言ってるか全く分からないけど面白い」等の声を集め、ライブの重要要素の一つとなっている。
鈴木 諭の他のリリース
哥処 墨林庵