恵のジャケット写真

歌詞

上田真育

風が捲る 一枚の記憶

頁の隙間に 君の声が残る

呼べば遠のく 名の輪郭

沈黙だけが 確かだった

戻れないことを 誰より知りながら

心だけが 置き去りにされた

幾度となく 書きかけては

名を消した封筒が まだ机にある

ペンの先で震える未練

言葉にした瞬間に

壊れてしまう 想いがあった

だから何度も 黙った

言葉とは 時に残酷で

伝えたいほど 遠くなる

宛てのない詩を 今日も誰にも

見せず 胸に仕舞う

送れなかった手紙だけが

時を留めたままの記録

君の知らない僕が

君のいない場所で

なお 君を思っていた

南の島の夜風に

輪郭を滲ませた日々

文化でも景色でもない

見失っていたのは 僕自身だった

小さな画面の森の中で

小さき者のふたりは並んでた

言葉より深い静けさで

過去だけが 確かに生きていた

“また何処かで”と

君は軽やかに笑った

もしそれが最後と知っていたら

僕はもっと 不器用に泣けただろうか

送れなかった手紙には

時間も記憶も詰め込めない

ただ 願いのような沈黙が

紙の白に 沈んでいった

冷静と情熱のあいだで

言葉にならぬ感情だけが

名もなく 火のように灯り

今も僕の夜を照らしている

帰国の夜、君だけが居ない街

警備服に身を包む生活

地に足をつけた今の自分が

君に出会っていたなら——

その問いは 答えを持たず

ただ、ときどき 僕を追い越す

そして何も言わず また

背中の向こうで消えていく

人は変わる

でも変わることが 間に合わぬ夜もある

今の僕を 君が見たなら

少しは安心してくれるだろうか

真面目に生きるという選択を

今ようやく 手にした僕に

君がいた世界は もうないけれど

その影が 静かに残ってる

送れなかった手紙には

さよならも 愛してるもない

ただ 僕独りの祈りが

宛名もなく綴られて

風に任せて消えていった

差し出せなかった理由は

後悔か、配慮か、それとも弱さか

夢の中でだけ 投函するたびに

誰かが静かに 首を振っている

送れなかった手紙の数だけ

君と語り続けていた

君が忘れていても

この静けさの中でだけ

僕は確かに 生きていた

それはもう 愛とは呼ばない

でも確かに 灯りだった

僕が見たことの無い 君の新しい幸せを

心からずっと願い続けている

──送らなかったことでしか

守れなかったものがある

そのことに 気づいた今は

心の中に その想いをしまうだけ

Yeah

Yeah... ありがとう、また何処かで!

Yeah

  • 作詞者

    上田真育

  • 作曲者

    上田真育

  • プロデューサー

    上田真育

  • グラフィックデザイン

    上田真育

  • ソングライター

    上田真育

  • プログラミング

    上田真育

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    上田真育

『恵』は、
僕の人生の中で実際に存在した時間と感情から生まれた作品です。

遠い南の島で過ごした季節、
画面越しに並んだ小さな冒険、
そして帰国後、静かな夜勤の灯りの中でふとよみがえった記憶。

届かないのではなく、
“あえて届かせなかった”想いがある。

誰かの未来を尊重し、
自分の未熟さとも向き合いながら、
胸の奥にそっとしまった手紙。

愛は語ることで終わることもある。
語らないことで、大切なものが残ることもある。

この歌は、
忘れてしまうためではなく、
ちゃんと生きた証として
静かに抱きしめてきた記憶のひとしずく。

それは別れではなく、
時間の中で形を変えて生き続けた光。

僕の人生のある瞬間を、
そのままそっと音にした曲です。

- 上田真育

アーティスト情報

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