ときどき考えるんです
化石になれなかったきょうりゅうのことを
いちばん空に近い草を食み のろのろと水を飲んだ
彼がたおれるときの地響きのこと
キッチンから湯気がふきだす音がする
ぼくはこの部屋に
ずいぶん遠くからきたような気がするんです
地区のゴミ捨て場のとなりの家に住んでいる青年は
いつもよれよれのシャツに缶煙草を持っている
ことばの前にはいつも「あ」「あ」をくっつけて 強盗を見るような目でご近所さんを見る
ゴミにたかるカラスを避けるときだけは目のはしっこがやわらかくて
ときどき酔っ払って帰ってきた日には
窓の奥からなにかが割れる音がする
家の前にはずっと前から
錆びた三輪車が停めてある
かなしいたんびに
かなしい山に
すずらんがひとつ
咲くような気がするんです
「よけいなお世話」と言われたことが
風呂上がりのぬれた頭に降ってくるとき
手をつなごうとした相手に
やわらかく拒まれたとき
雲になった友だちと同じ歳を迎えたとき
昼夜うすぐらい谷底にすずらんがぽつり ぽつり
透きとおる花びらの中に 鐘の音をひそませて
ときどき考えるんです
町はずれの墓場の墓石それぞれに
はじめて乳歯が抜けた日があったこと
ぼくだけのための子守唄はもう存在しない
だがかつては存在した かつてたしかにあったんです
化石になれなかったひとたちが
立ち木のように街の一部に組み込まれていく
それでも
地区のゴミ捨て場のとなりの家に住んでいる彼の痩せたわき腹の骨だけは
いつか土のなかにしずかにうずもれて
未来へはこばれていく気がするんです
かなしいたんびに
かなしい山に
すずらんがひとつ
「余計なお世話」と言われたことが
風呂上がりの濡れた頭に降ってくるとき
手をつなごうとした相手に
やわらかく拒まれたとき
キャベツをいちまいいちまい脱がせていくとき
意味もなくうそをつくとき
誰もぼくの目を見てはくれない
黄色い帽子たちが夕飯をめざし走っていく五時
隣の部屋にも イルカの群れにも
愛と呼ばれるものはここ以外のどこにでもあって
ぼくだけがそれを持っていない
ゴミ捨て場はきょうもなぜか
すすけている
(ぽつり ぽつり)
帰り道のコンビニが白紙のように明るくて
コーヒー一杯をあきらめる日
三輪車をすこしずらして玄関をあける
処分する気もおきないだけ
雲になった友だちと同じ歳を迎えたとき
じぶんの拳の形の穴を眺めている朝
こんなふうに取りこぼしてきたもののすべて
ゴミ捨て場はきょうもなぜかすすけている
おまえにもつがいがあるのかい
旅立つ日
ぼくが旅立つ日
誰もぼくを追いかけてはこない
かなしい山に ひかりは届かないが
ときどきどこからか風が迷いこむ
いちめんのすずらんをさざなみが渡り
いっしゅんの間をあけて
鐘の
音が
あれは すべて あなたの花
- Lyricist
Kujira Sakisaka
- Composer
Yuya Kumagai
Listen to Lily of the valley by Anti-Trench
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- 1
Prologue:the pulse
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- ⚫︎
Lily of the valley
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- 3
The carafe with a crack (feat. Kitsunebi)
Anti-Trench
- 4
Interlude:The skin and the nod
Anti-Trench
- 5
So that I don't have to pray anymore
Anti-Trench
- 6
the promise
Anti-Trench
- 7
Epilogue:Begin to turn
Anti-Trench
Artist Profile
Anti-Trench
Anti-Trench 詩人・向坂くじらとGt.クマガイユウヤによる朗読ユニット。2020年1stAlbum「ponto」「ŝipo」リリース。 向坂くじら 詩人。第一詩集『とても小さな理解のための』(しろねこ社)。朝日新聞、共同通信社配信の各地方紙、他雑誌などに寄稿。教育の分野でも活動し、各所で詩の出張授業を実施するほか、2022年埼⽟県桶川市にて「国語教室ことぱ舎」を自ら創設する。 クマガイユウヤ ギタリスト、コンポーザー。 セッションミュージシャンとして幅広くジャンルレスに活動するだけでなく、ソロプロジェクト・THE NAAVなど、各所で精力的に活動中。BMSG所属アーティスト・Novel Coreのバンドメンバー。
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