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1984年、私は北青山のアンティークショップから、新装開店のこけら落としに店内で流すBGMをつくってくれないかと打診された。そのころ私がときどき弾いていたピアノの(でたらめな)即興演奏が気に入られたのだろう。私は張りきってマテリアルを揃えた。が、プレイバックしてみるといずれもが有機的で、主旋律がはっきりしており、雰囲気づくりに使えるとはとうてい思えなかった。それに気おくれした私は、とうとう期日前に楽曲を提供できなかった(さいわいバンド仲間のギタリストが環境音楽的な音源を提供したので事なきを得たのだが)。
そんなふうに20代前半の私は、周囲の信頼を失い続けてきた。
出しそびれた音源は、聞き流すには心地よくなく、1980年代の港区にはそぐわないシロモノだったが、ひとつの作品としてみれば、興味深い側面も少なくない。人によっては、知識や技術を持たないノン・ミュージシャンが持てる想像力を総動員して懸命にこしらえた痕跡が見てとれるだろう。この時期に培った音の積み重なりはいずれ私の音楽の特徴となるが、その萌芽を面白がれるような方なら、劣化したテープの音質をも楽しめるかもしれない。
できれば音量を控えめにしていただければ、いい感じに聞こえると思います。
鰯こと岩下啓亮 Sardineです。 1983年から2003年までの20年間で、ひとり多重録音した楽曲が約200曲あります。これらを8枚のアルバムにまとめて2024年に順次アルバムをリリースしました。2025年はアンソロジーの代わりに、年代順に編集したアルバムを発表します。 その音楽は、多種多様です。親しみやすいポップスもあれば、社会的視点をそなえたメッセージソングもあります。プログレッシブな構築性もあれば、パンク的な破壊志向の側面もあります。手ごわいピアニストで、マッドなシンセサイザー弾きで、たどたどしいギタリストで、音の読めるベーシストで、緩いリズムのパーカッショニストで、ひとり多重コーラスを駆使する、不器用なシンガーソングライターです。それらすべてのパートが、一つの人格に統合されているのです。 ロマンチックと薄情と情熱の混淆、とりとめもない不安と届かぬものへの憧憬を描いた、オールディーズだけどもエヴァーグリーン。表情豊かな鰯の音楽を、ぜひお聞きください。