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1984年、私は北青山のアンティークショップから、新装開店のこけら落としに店内で流すBGMをつくってくれないかと打診された。そのころ私がときどき弾いていたピアノの(でたらめな)即興演奏が気に入られたのだろう。私は張りきってマテリアルを揃えた。が、プレイバックしてみるといずれもが有機的で、主旋律がはっきりしており、雰囲気づくりに使えるとはとうてい思えなかった。それに気おくれした私は、とうとう期日前に楽曲を提供できなかった(さいわいバンド仲間のギタリストが環境音楽的な音源を提供したので事なきを得たのだが)。
そんなふうに20代前半の私は、周囲の信頼を失い続けてきた。
出しそびれた音源は、聞き流すには心地よくなく、1980年代の港区にはそぐわないシロモノだったが、ひとつの作品としてみれば、興味深い側面も少なくない。人によっては、知識や技術を持たないノン・ミュージシャンが持てる想像力を総動員して懸命にこしらえた痕跡が見てとれるだろう。この時期に培った音の積み重なりはいずれ私の音楽の特徴となるが、その萌芽を面白がれるような方なら、劣化したテープの音質をも楽しめるかもしれない。
できれば音量を控えめにしていただければ、いい感じに聞こえると思います。
鰯こと岩下啓亮 Sardineです。1983年から2002年までの19年間で、ひとり多重録音した楽曲を約150曲発掘しました。これらを8枚のアルバムにまとめて、2024年に順次リリースしました。 2025年は、前年に配信したアンソロジーの代わりに、年代順に編集し直したアルバムを発表します。その第一弾として、1989年から1995年の間に制作した楽曲をまとめた『Windsor knot』を1月25日にリリースしました。2月には、1983年から1984年の間カセットテープに録音した音源を収めた『Cassette Gadget』の2タイトルをリリースします。 ロマンチックと薄情と情熱の混淆、とりとめもない不安と届かぬものへの憧憬を描いた、オールディーズだけどもエヴァーグリーン。バラエティ豊かな鰯の音楽を、ぜひお聞きください。