そう、2月14日、君があいつの下駄箱に入れたチョコレートの箱を、僕はこっそり抜き取った。誰も気づいちゃいない。
僕は君が見逃した流れ星にさえなれない路傍の石だ。
恋愛なんかに微塵も興味はないですって顔をして、これ見よがしに「堕落論」なんて読んでいる、君のあの短く切りそろえた爪が、ココアパウダーにまみれて、あいつのためにがんばろうなんて思っていたのに、うまくできないものだからちょっと苛立ってさ、やっぱりもうやめようなんて考えたりしたのかな?それでも、箱に詰めたんだね。
かわいそう。
かわいそうでこんなに愛おしい。
甘い。苦い。
3月14日、君は友達からもらった色とりどりのお菓子をたくさん机において、困ったように笑っていた。
姦しい女の子たちの輪から一歩外側に弾かれて、何かの義務みたいに、包みの一つを開いて、オランジェットを咥えた、薄い唇。
ねえ、 甘いものは好きじゃないよね。
ちょっと苦手なんだよねって、そう言えばいいだけなのにさ、君は臆病すぎるから、チョコどうだった?なんて聞くこともできない。
君が無理して箱詰めした苦い恋心は、誰にも気づかれないまま、僕の胃の底に消えてしまうのです。
きっと無かったことになるんだね。無視されたって思ったら、きっと潰れてしまうから。君は黙って、無かったことにする。
だから、僕の胃の底に消えてしまうのです。
その不器用さを、不格好さを、みっともなさを、僕だけが知っていればいい。
空の箱が愛おしいのです。
ねえ、あいつも甘いものが苦手なんだって、知らなかったでしょう?
僕にくれたなら、おいしかったよって言ってあげるのにな。
もちろん、そんなことを望みはしないよ。
僕は路傍の石に過ぎない。君が作ったトリュフチョコレートと同じだ。
だから、君だって同じだ。ひとりきりなんだよ。
ただ、僕とおそろいの、ひとりきりでいてほしい。
- 作詞
小宵
- 作曲
dingerbox
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0314 (feat. dingerbox)
小宵
アーティスト情報
小宵
ウタとコトバを届けるバーチャルアーティスト。 オリジナル曲の歌唱・作詞の他、文筆活動を行う。 目標は自分が作り出すミームで世界を征服すること。
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