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「ダヴィズ先生のゴステグ」Gosteg Dafydd Athro, Robert ap Huw MS. (1613) 26弦メープル製ブレイハープ (op.44) による演奏。
楽器設計、製作、編曲、演奏、楽曲解説:寺本圭佑
17世紀以前のウェールズのバードの音楽を記した『ロバート・アプ・ヒュー手稿譜』(c.1613) に収録。この手稿譜はアングルシー島の詩人でハープ奏者である Robert ap Huw (c.1580-1665) によって編纂された。アルファベットを用いたタブラチュアで記譜されており、装飾法、調弦法、レパートリーのリスト、そして24のメジャーについても記されている。手稿譜はロバート・アプ・ヒューの死後、四男 Henry Hughes (b.c.1635) の手に渡り、詩人 John Prichard Prys (d.1724) を経て、1720年代後半に考古研究家 Lewis Morris (1701-65) の所有となった。だがこの時代には、すでにタブラチュアに書かれている音楽を理解できる人物はいなかった。アプ・ヒューはジェームズ1世の宮廷でもハープを演奏していたとされる。彼が演奏していたのはブレイピンの付いた意図的にノイズを出すタイプのハープ(ブレイ・ハープ、ゴシック・ハープ)だった。11世紀後半にグリフィズ・アプ・カナンがアイルランドからハープ奏者たちを従えてアングルシー島に侵攻し、ウェールズのハープ音楽を改革したという伝説が残されている。当時のウェールズで演奏されていたハープの音色は、アイルランドのものとはまったく異なっていた。そのため、アイルランド人たちはウェールズのハープを「ミツバチが唸る音」を意味する “teilin” と呼んだ。これが、ウェールズ語でハープを意味する 「テリン telyn」 の語源になったと考えられている。金属弦のアイリッシュ・ハープとは対照的な響きで、哲学者F. ベーコンは「アイリッシュ・ハープとバスヴィオールはよく調和し、ウェルシュ・ハープとアイリッシュ・ハープは調和しない」と述べている。
「ゴステグ gosteg」とは文字通りには、「順序」「静寂を必要とする」という意味であり、前奏曲のようなものと考えられている。11001011という数列が記されており、Korffiniwr というメジャーに厳格に基づいて作曲されている。メジャーとは2種の低音コードの交代パターンを意味しており、音楽を理解し、作曲するためにバードが必ず知ってなくてはならない基礎知識だった。アイステズヴォド Eisteddfod という会合で技能を確認する試験が行われ、能力に応じて「ペンケルズ Pencerd(技芸の長)」などの称号が与えられた。Athro は先生の意味で、「ダヴィズ先生のゴステグ」の意。1360年から1405年ごろにアングルシー島で活躍していた人物とされる。
寺本圭佑(てらもとけいすけ)ハープ 京都市出身、横浜市在住。雨田光示氏にハープ、坂上真清氏にネオ・アイリッシュ・ハープ、樋口隆一氏に音楽学を師事し、失われたアイリッシュ・ハープの音楽美意識を追求。18世紀以前のアイリッシュ・ハープの研究により芸術学博士(明治学院大学大学院)。2017年と22年、BS-TBS「こころふれあい紀行~音と匠の旅~」にアイリッシュ・ハープ研究家として出演。ケルトの音色を現代によみがえらせる活動を取り上げられる。『ケルト文化事典』(東京堂出版)の「ハープ」「オカロラン」等、『浜松市楽器博物館総合案内図録2020』「アイリッシュ・ハープ」の項目を担当。横浜と京都でハープ教室を開講し400名以上を指導。2014年から独学で347台以上のハープを制作(2025年4月現在)。この楽器の普及活動に役立てている。2022年『20弦ハープで奏でる366の曲集』を上梓。2024年3月22日から毎日18時に自作ハープによる演奏動画をYouTubeにアップしている。www.youtube.com/@telynmoto