

自殺者を生む人間が
自殺対策の会議をしている
自殺者を生む人間が
自殺対策の会議をしている
空調の効いた
県庁の七階
今日の弁当は
近くの仕出し屋
いにょの匂いが
少し可怪しい
腐りかけは
残しておく方が安心だ
ブヨブヨしてて
気味が悪いから
顔の毛と言う毛が全部抜けた上司
日付が変わるまで叩いてたキーボードの音
永遠と飲み続けるブラック珈琲
給湯室で換気扇が回っている
娘に「お父さんツルツルだ〜!」
って笑われると言って
どこかぎこち無い笑顔で私に話す
なんて反応したら良いのか分からない
その人は言う
俺は後20年
鈴木君はあと40年
いや、君の頃には定年がいつかは分からない
我慢して我慢して生きてかねばねった、と
残業の夜、滑舌の悪い建設会社の社長の
ジャズ番組が流れている
奥にある記帳室
昔この建物が病院だった頃
遺体の安置室だったと言う
見える人には見えるらしい
僕は観たことが無かった
いつも虚ろな目をしていた
金融公庫のあの人
会議でいつも上司にいびられ
大きな体を小さく縮こまらせて
すみません、すみません
と言ってた声が
未だに頭に残ってる
北海道に建てたマイホームには
長期休暇の時に帰るだけ
潮風で柱が折れるのは
時間の問題だ
話が飛ぶが、今年はイカが不漁らしい
去年の冬は鰰も取れなかった
もう海は駄目なのか?
海岸を埋めるブリコの山
おやつにする子供たち
踏み付けられて鳴る
ブヂュブヂュという音
食い荒らしに来る
近所の飼い犬
日本海が今日も黒い
日本海は今日も黒い
話は戻って・・
人の心を何とも思って無い上司
仕事の出来ない先輩に
毎日怒号を飛ばしてる
冷たい事務所
いつもいつも冷たい事務所
石油ストーブの匂いが
もう分からない
税理士から貰った
お中元の栗羊羹が
ポットの脇に積まれている
ある日急に来なくなった先輩
机の上に汚い字で辞表届
たぶん、喜びと歓喜の辞表届
私が唯一肉眼で観た辞表届
マタギの郷で
熊でも殺して生きてる方が
よっぽど幸せでは無いだろうか
上司に奥の会議室に呼ばれる
仕事が出来るからと言って
調子に乗り過ぎるなと
怒られる
煙草の煙が舞う
茶色いソファー
如何にもな高い置時計
針が何時を指してたか
全く覚えてない
私はいつも冷静を知らない
今年は種苗交換会だ
笑っているようで
いつも心はやっとです
いつものように
笑って話を聞いてたら
「お前はおかしい」と
すごく偉い人に
真っ直ぐ目を見ながら言われました
それから私は
笑わないようになりました
笑っていてはいけないと
気付きました
努めて笑わない日々を過ごしました
人は目に見えるモノが全てです
何かにつけて
落ち込んで見えた方が得なのです
秋田の冬は寒すぎて
笑えないのです
腰まである雪を
掻き払えなくなりました
雪はずっと降り続きます
冬になると降るのです
水を吸った雪は、兎に角重いです。
凍てついた朝、滑らないで車を走らせる事が出来ません。
ガチガチに凍ってしまった雪は、人間の力で砕けるモノではありません。
軒を見るとつららがあります。
太い太いつららがあります。
忙しなくスーツを着込んで出社する朝。
つららが落ちて来て脳天を突き破ってくれたら、それはそれは幸せな事かも知れません。
白と赤ほど良い組み合わせの色はありませんから。国旗もそうです。
美しい。
美しくて、美しくてしょうがない。
だから、もしかすると冬に死ぬ。
雪の中で死ぬ、と言うのは楽しい事なのかも知れません。
何にも感じなくなる事は、きっと大きな幸せなのでしょう。
雪が降っています。
雪が降っています。
雪が降っています。
会議室の灯は消えて、全部真っ暗。
外では雪が降っています。
今日も一人、人が死にました。
今日も、有意義な会議でした。
議事録を終了します。
直属の上司の決裁を受けて、回覧を回します。
真っ白な紙。黒枠の中に、真っ赤な真っ赤な判子が押されてゆきます。
局長、部長、課長、課長補佐、末端職員。
やっぱり、白と赤は美しい。本当に本当に美しい。
完成した議事録をまざまざと眺めて、改めて感じました。
そろそろシュレッダーのゴミ箱が満杯です。
これを書き終えたら、裏の倉庫に行って捨てて来ます。
勿論、連日のこの酷い雪なので長靴を履いて。ジャンバーを着て。手袋を履いて。
私もそのまま帰って来ないかも知れません。
冬です。冬です。ずーっと、ずーっと冬です。
- 作詞者
鈴木 諭
- 作曲者
鈴木 諭
- ミキシングエンジニア
鈴木 諭
- マスタリングエンジニア
鈴木 諭
- ギター
鈴木 諭
- ボーカル
鈴木 諭

鈴木 諭 の“朗読・自殺者対策会議 (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)”を
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夏の風はいつも苦しい (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)
鈴木 諭
2024年7月20日に工房ムジカにて行った、初・独演会『27年前の私に送る秋田の詩たち。』の模様を全編音源化。当日は酷い雷雨。演出かのように入り込む雨と雷の音。ライブの内容も圧巻。
店主・葛原りょう氏はライブ後に、以下のように書き残している。
「こんなに全身血の気の全力で引くライブは初めてだ。
圧倒的な虚無感。語りの冴えが痛ましく、リアルの極み。
月曜日の雪。犬の川。亀の串刺し、ばあちゃんの遺影。
上田病院。アトピーの歌。怒涛のギターの畳みかけ。
言い尽くせぬライブだった。
たしかに梅雨明けの日暮里は雪国だった。」
筆舌に尽くしきれぬ地獄の世界、心して体感して貰いたい。
いざ、地獄の世界へ。
アーティスト情報
鈴木 諭
地獄の詩世界と秋田弁ブルースを唄う、ただの秋田県人。じゅんさい王国(旧・山本町)出身。2023年頭より弾き語りを本格始動し、代表曲である『犬の川』はライブ演奏を通し多数の人間から「これは犬の楢山節考だ」などと激賞を得た。また秋田弁ブルースは「何を言ってるか全く分からないけど面白い」等の声を集め、ライブの重要要素の一つとなっている。
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哥処 墨林庵