マグマくまくんと肯定否定の世界/第三童謡集のジャケット写真

歌詞

一日だけねこになれたよ (Polyphonic Mix)

田中事件

朝食はキャットフードだった

みそ汁かけご飯を希望したい

私の体に入ったうちの飼い猫

ニャーが言えずに困っている

昼食もキャットフードだった

自動給餌器とは便利なものだ

みそ汁かけご飯がいいのだが

作ってくれる人がいないのだ

夕食もキャットフードだった

明日はみそ汁かけご飯を作る

猫になっていま思い出してた

死んでいった家猫たちの事を

私たちは床の上に眠りながら

お互いの気苦労を思い合った

ニャー、おい

明日は元通りに戻るらしいなあ

戻ってなかったらどうしようかなあ?

明日は元通りに戻るらしいニャー?

戻ってなかったらどうするニャー?

ニャーおい?

ニャーおい?

ニャーおい?

ニャーおい?

ニャーおい?

ニャーおい?

ニャーおい?

ニャーおい?

  • 作詞者

    田中事件

  • 作曲者

    田中事件

  • プロデューサー

    田中事件

  • レコーディングエンジニア

    Kar

  • ギター

    田中事件

  • ボーカル

    田中事件

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このアルバムはすべてCordobaのMini O-CEでレコーディングした。当日までは普通にアコースティックギターで録ろうと思っていたのだが、Karさんの家まで両方持って行って、車を降りる瞬間になんとなくこれでやろうと決めた。このギターはお子様が生まれて2ヶ月くらいの時に、お子様用のギターとしてプレゼントしたものである。お子様の身長よりも当時大きかった。いまは大体同じくらいだろうか。メルカリで買ったのだが、買ってから一度も弦を張り替えていない。そのうち張り替えるだろうから、一度も張り替えていない今の音、お子様が生まれて初めて弾いた弦の音をここに閉じ込めておくということは、なんとなく、素敵じゃないか。と思った。今もまだレコーディングは最中で、コード進行もメロディも決まっていない曲があと一つある。正直忙しかった。前はやろうと思った事全部やっちゃおうと思っていたが、もう今は何でもかんでもはやれなくなってしまった。ライブの頻度は減った。ライブをしなくても詩は書けるし曲は作れる。バンドを主としていた頃にはこうなるなどとは想像もしていなかったな。


今年の1月に祖父が他界し、2月にナカミツくんが他界した。その間にマグマくまくんは2歳を迎え、少しずつ喋るようになってきた。最近は急速に「しない」「ちがう」といった否定の言葉が目立ち始めている。

誰でも通る道なのかもしれないが、自分にとっては初めての経験だし、お子様にとっても初めてだ。「お子様」と呼ぶことは、だんだん減ってきた。あえてここでは「お子様」と呼ぶが、お子様には名前があり、その名前もどんどん馴染んできた。名前を呼べば反応するし、自分の名前を自分で呼ぶこともある。

私たちはみな、どこかから来て、いつかどこかに行ってしまうが、その「どこかに行ってしまう」までの時間には、数年、数十年、場合によっては100年を越える大きなタイムラグが存在する。どこかに行ってしまった時、人はその残した痕跡によって記号になる。記号はやがて、この世界の中でその存在を薄め、信号になる。

雨の一滴が海に落ちて粒子として拡散するように、私たちは無限小という非常に小さな存在まで分解され、いつかほとんど0になってしまうだろう。それでも私たちの心の中にとどまり続ける残滓は、人がそれを口にするたびに、テキストにするたびに、強化されるのかもしれない。あるいは、そうすることで変質してしまうこともあるのかもしれない。

でも私は、それは悪いことではないと信じている。これは非常にデリケートな問題なので、私はこの考えを誰にも強制はしたくない。レクイエムの類に対して、他人が死について語る内容に対して、感情移入するということは決して必要なことではない。

人の死に直面して、それぞれが抱く感情の性質や強度には大きな個人差があり、その感情はいろんな方向を向いている。「そんな安っぽいレクイエムなどくだらない。聴きたくもない」という人もいるだろう。他人が作るレクイエムや語る言葉に対して、私もその感情を抱くことがある。

それでも私は信じている。「そこに生きた人の存在が、概念として残された人々の中に残ることは素晴らしいことだ」と信じている。これは自他の存在に関する、私の哲学だと言える。その背景には、私の自我が存在する。

自我という概念を確立することは、人間の思考発達過程の中では、かなり高度なことではないかと思うが、そこに至るまでの第一歩として、マグマくまくんは肯定と否定の言葉を理解し、使い始めた。

そんなマグマくまくんに、今年は二つのマイナースケール――ナチュラルマイナースケールとメロディックマイナースケール、そして少しの歌をお届けする。去年はメジャースケールだったからね。つまり、肯定と否定である。

童謡集とはさすがに言えない気もするけど、まあ、そんなことは大した問題ではないだろうね。

マグマくまくん。

令和7年3月23日
40歳になったばかりの田中事件

アーティスト情報

TNKJKN RECORDS

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