苔蒸虎御前不退轉虎石金言浄国のジャケット写真

苔蒸虎御前不退轉虎石金言浄国

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inspired by 錦文流『本海道虎石(ほんかいどうとらがいし)』(1699)
黒木勘蔵解題

苔蒸虎御前不退轉虎石金言浄国


この作品は、曽我兄弟の仇討ちを題材にした「曽我もの」の一つで、特に兄・十郎の恋人である虎御前(とらごぜん)と、不思議な霊力を持つ「虎石(とらいし)」に焦点を当てた浄瑠璃です。

1. 時代・背景
時代: 鎌倉時代初期。源頼朝が征夷大将軍として権勢を振るっていた頃。

場所: 鎌倉、大磯(廓)、宿河原(やどがわら)など。


発端(鎌倉):
将軍・源頼朝の御前で、工藤祐経(くどうすけつね)が権勢を誇っています。そこへ曽我兄弟(幼名の箱王・一万、あるいは成長後の十郎・五郎)が現れ、父の敵である工藤と対面します。工藤は「我こそが工藤左衛門祐経である、よく顔を覚えておけ」と傲然と言い放ち、兄弟は無念の涙を呑みます。

大磯の廓(虎と十郎):
舞台は大磯の廓へ。兄の曽我十郎祐成は、遊女の虎御前(虎)と深く愛し合っています。虎は十郎の身を案じ、仇討ちの悲願達成を祈っています。二人の情愛や、別れを惜しむ「道行(みちゆき)」のような情緒的な場面が描かれます。

宿河原の怪異(虎石):
物語の後半、武蔵国の宿河原(現在の川崎市)で不思議な出来事が起こります。土中から光り輝く、あるいは重い「石」が掘り出されます。これは虎御前の執念や霊性が乗り移ったとされる「虎石」です。
この石は非常に重く、並の力では動かせませんが、怪力の持ち主である朝比奈三郎(あさひなさぶろう)が登場し、この大石を持ち上げる場面(力石の曲持ち)が見せ場となっています。

大詰め(少将の奮戦):
クライマックスでは、曽我兄弟の仇討ちに呼応するように、弟・五郎の恋人である化粧坂の少将(けわいざかのしょうしょう)も武器を取って戦います。彼女は敵方の和田与一(わだのよいち)らと激しく斬り結び、女性ながら勇猛果敢に戦う姿が描かれています。

3. 登場人物
曽我十郎祐成(そが じゅうろう すけなり): 曽我兄弟の兄。虎御前の恋人。

曽我五郎時致(そが ごろう ときむね): 曽我兄弟の弟。豪胆な性格。

虎御前(とらごぜん/虎): 大磯の遊女。十郎を深く愛するヒロイン。「虎石」の縁起に関わる。

化粧坂の少将(けわいざかの しょうしょう): 五郎の恋人。終盤で薙刀などを振るって戦う女武者。

工藤祐経(くどう すけつね): 頼朝の重臣であり、曽我兄弟の父の仇。

朝比奈三郎(あさひな さぶろう): 和田義盛の子。無双の怪力を持つ豪傑。虎石を持ち上げる。

和田与一(わだの よいち): 敵方の武士。少将と戦う。

団三郎(だんざぶろう): 曽我兄弟の協力者(鬼王・団三郎兄弟の一人)。


実際の台本のセリフから抜粋

「苔(こけ)蒸(む)して。」
「苔(こけ)蒸(む)して。」
……雨露(あめつゆ)に打(う)たれ。
……幾(いく)星霜(せいそう)。
……見る人(ひと)の涙(なみだ)を誘(さそ)ふ」
「釋迦(しゃか)。
……浄国(じょうこく)を成就(じょうじゅ)すべしとの金言(きんげん)。
……有難(ありがた)しく」
「浅猿(あさま)しや。
……猫(ねこ)の額(ひたい)ほどの。
小石(こいし)一(ひと)つ。
……大勢(おおぜい)にて。
……動(うご)かぬとは。
……笑(わら)ひ止(と)まらず」

「次(つぎ)に扣(ひか)へし鬼王(おにおう)は。
餘(あま)りの無念(むねん)に。
せき狂(くる)い。
障子(しょうじ)一重(ひとえ)に立(た)ち隠(かく)れ。
身(み)をもがき。


……泣(な)くより外(ほか)の事(こと)ぞなき」

「虎(とら)が石(いし)と不退轉(ふたいてん)に住(じゅう)すとなり。
末世(まっせ)の衆生(しゅじょう)いかでか此(この)悟(さとり)を開(ひら)くべけんや。
只(ただ)愚痴(ぐち)に返(かえ)つて我(わが)名(な)を修(しゅ)せば。
刹那(せつな)に至(いた)つて凈土(じょうど)に迎(むか)へん爲(ため)に。

「人間(にんげん)は。
……白骨(はっこつ)の如(ごと)く。
……一(ひと)たび。
……無常(むじょう)の風(かぜ)に。
……誘(いざな)はれなば。
……此(この)身(み)。


……塵(ちり)となる」

「諸人(しょにん)。
……舌(した)を巻(ま)き。
……感(かん)じ入(い)る。
……天(てん)に響(ひび)く。
……鬨(とき)の聲(こえ)」

我(われ)又(また)希有(けう)の願(がん)を起(おこ)す」

「宿(やど)が原(はら)。……穿(うが)てばカッチリト音(おと)して。
……不思議(ふしぎ)なるかな此(この)石(いし)。
鶴嘴(つるはし)を打(う)てば。
石火(せっか)を散(ち)らし。


「此(この)石(いし)。虎(とら)が念(ねん)の凝(こ)り固(かた)まりて。
……重(おも)き事(こと)。千引(ちびき)の岩(いわ)よりも。


……軽(かろ)き事(こと)。羽毛(うもう)の如(ごと)く」

「虎が石つ不退轉に住すとなり。……此念佛を信する者は。
「無量億劫の極重惡業を忽ちに滅し」

「虎(とら)が石(いし)つ不退轉(ふたいてん)に住(じゅう)すとなり。
……末世(まっせ)の衆生(しゅじょう)。
……愚痴(グチ)に返(かえ)つて我名(わがな)を修(しゅ)せば。


刹那(せつな)に至(いた)つて凈土(じょうど)に迎(むか)へん」

「苔(こけ)蒸(む)して。」
「苔(こけ)蒸(む)して。」
「虎が石つ不退轉に住すとなり。……此念佛を信する者は。

無量億劫の極重惡業を忽ちに滅し」

「浅猿(あさま)しや。
……猫(ねこ)の額(ひたい)ほどの。
小石(こいし)一(ひと)つ。
……大勢(おおぜい)にて。
……動(うご)かぬとは。


……笑(わら)ひ止(と)まらず」

「釋迦(しゃか)。
……浄国(じょうこく)を成就(じょうじゅ)すべしとの金言(きんげん)。
……有難(ありがた)しく」

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