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inspired by 近松半二『お染久松袂の白しぼり』または『新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)』または『心中鬼門角』(1780)
校注 黒木勘蔵解題
題材となった事件は、黒木勘蔵の推論によれば宝永5年(1708年)に起きている。
その後、事件は脚色され歌祭文となって流布した。宝永7年には歌舞伎狂言『心中鬼門角』として初の舞台化がなされたが、『新版歌祭文』に直接の影響を与えた作品は、宝永8年(1711年)に豊竹座で初演となった人形浄瑠璃『お染久松袂の白しぼり』である。『袂の白しぼり』は所作事の傑作として、諸流派で繰り返し再作品化されている。
『新版歌祭文』は、お染・久松の心中事件を下敷きとして、安永年間の風俗や事物を活写して創作された作品であり、特に野崎村の段は全て半二の創案によるものである。世話物とされているが、悪党の奸計や刀の詮議、改心の愁歎などの要素が盛り込まれた歌舞伎仕立ての作品となっている。
油屋の娘お染と、武家の出自を持つ丁稚の久松は身分違いの恋に落ちるものの、お染は他家と親同士の結納を交わしていた。奸計によって引き離された久松は、郷里の野崎村で養父母の実娘お光と祝言を上げることになった。そこへお染が現れて懐妊の事実を告げ、久松と別れなければならないなら死を選ぶと言い放つ。嫉妬しつつも二人の覚悟を察したお光は、身を引いて尼になる。大阪に戻った久松をお家再興の話が待っていた。しかし、奸計によって結納金盗難の犯人に仕立て上げられ、蔵に閉じ込められる。
お勝の真意と久松への愛(油屋の段)
久松をいじめていたように見えた継母(雇い主の後家)・お勝が、実は久松を元の武士の身分に戻すために、わざと娘・お染との仲を裂き、結納金を工面して刀を取り戻していたことを明かす、物語の核心部分です。
お勝(後家)
「サア久松。そなたに是(これ)がやりたいばかりに。
嫌ふ娘を山家屋へやらねばならぬも親の譯(わけ)。
是(これ)を土産に本知(ほんち)に歸れば。
和泉(いずみ)の御家中(ごかちゅう)、相良(さがら)久松様。
いつまでも油屋の丁稚(でっち)で居るが見目(みめ)ではあるまい。
まだ年の明かぬ中(うち)と。私(わし)への義理や何やかや。
譯(わけ)もない事思わすと。早う出世(しゅっせ)さしやんせ」
1. 座摩社(ざまやしろ)の段
大坂の座摩神社。油屋の手代・小助は、お染に懸想する山家屋佐四郎をたぶらかし、金儲けを企む。一方、お染と久松は人目を忍んで茶屋で密会するが、小助に見つかり、さらに紛失した店の金(銀一貫五百目)や刀の件で窮地に立たされる。久松は罪を被せられ、野崎村の実家へ帰されることになる。
「サレバいやい。其久松が文庫(ぶんこ)は。開いてあつたか錠(じょう)がおりてあったか。
金盗む程の者なら、其目録(もくろく)は破つて捨てる筈の事を。
我が科(とが)の知れる様に、わざと我が文庫に入れて置いて。しかも蓋開けて置きさうなものか。
但し。又錠がおりてあつたをそなたが開けたら。
人の箱の錠捻切る(ねじきる)は盗人の業(わざ)。
それならそちにも疑ひが懸(かか)るぞよ。
サそれは。其様に手荒うせずと。靜かにしても詮議はなると」
店の金がなくなった事件で、久松の文庫(手箱)から証拠の目録が出てきた場面。小助が「なぜ証拠がそこにあるのか」「鍵はどうなっていたか」を問い詰め、逃げ道を塞ぐ陰湿で巧みな長台詞です。
「山家屋の佐四郎ともいはれる者が。アノなればこそコレ此鏡(かがみ)さしを見てたも。
シタリ百度參りとはきつい凝りやう。イヤ凝つた段ではない。
元油屋の家には親どもから。百貫目餘の取りかへ。
それを急に催促せぬはあの娘故。
後家のお勝にとろから言込んで。結納まで入れてある。
……ハテ此望みが叶うたら。礼はきつい飯櫃(めしびつ)形でするわい」
お染に惚れ込んだ山家屋佐四郎が、神頼みの成果(お百度参り)を小助に自慢し、さらなる祈祷を依頼しようとする滑稽な場面です。
2. 野崎村(のざきむら)の段
野崎村の百姓・久作の家では、久松とお光の祝言の準備が進められている。お光は久松と夫婦になれることを喜び、甲斐甲斐しく働く。そこへ大坂から小助が現れ、久松が横領したとされる銀を返せと強請る。久作は娘のために貯めた持参金を差し出してその場を収める。
3. お染の来訪と三角関係
祝言の直前、お染が舟で野崎村を訪ねてくる。お光は嫉妬し、お染に冷たく当たるが、久松はお染への愛と義理の板挟みになる。
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