南無正八幡・猫冠鬼鹿毛荒馬地獄羅刹のジャケット写真

南無正八幡・猫冠鬼鹿毛荒馬地獄羅刹

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inspired by 紀海音、お山人形:辰松 八郎兵衛『鬼鹿毛無佐志鐙(おにかげむさしあぶみ)』(1713)


南無正八幡・猫冠鬼鹿毛荒馬地獄羅刹

浅野内匠頭の17回忌にあたる正徳3年の12月には大阪の豊竹座で紀海音作の人形浄瑠璃『鬼鹿毛無佐志(むさし)鐙』が上演されている。これは宝永7年に大阪の篠塚庄松座で上演された吾妻三八作の『鬼鹿毛武蔵鐙』に負う所が大きいもので、内蔵助は『鬼鹿毛武蔵鐙』と同じく大岸宮内という名である。この作品では赤穂事件を『太平記』に仮託しつつ、そこから離れて足利義政の時代の事件の小栗判官と照手姫の物語も取り上げられている。 本作は構成上の不備がある等傑作とは言い難い面があるが、『仮名手本忠臣蔵』の七段目に影響を与える等、義士劇の系譜の上では重要な位置を占める。 この作品は近松門左衛門のライバルであった紀海音であり、内容的にも近松門左衛門の『碁盤太平記』を意識したものになっている。この『鬼鹿毛無佐志鐙』(とその前作『鬼鹿毛武蔵鐙』)は近松門左衛門の『碁盤太平記』と並び、『仮名手本忠臣蔵』につらなる源流の一つで、この作品で出てきた大岸宮内、小栗判官といった名前は後の作品にも頻出する。

【主要登場人物】
小栗判官(おぐり はんがん)
主人公。武芸や芸能に優れた美男の貴公子。横山の娘(照手姫)の婿となるが、横山に命を狙われる。

横山左衛門(よこやま さえもん)
小栗の義父(舅)。小栗を憎み、斯波為光を贔屓にしている悪役。小栗を殺害しようと様々な罠(鬼鹿毛への騎乗、毒酒など)を仕掛ける。

斯波の為光(しばの ためみつ)
横山が気に入っている武将。小栗のライバル的存在。

政知公(まさともこう)
将軍足利義政の弟。鎌倉に下向している。

朝倉高景(あさくら たかかげ)
大名の一人。

伊勢新九郎(いせ しんくろう)
後の北条早雲。大名の一人として登場。

大岸(おおぎし)
小栗の家臣(忠臣)。

三郎(さぶろう)
小栗の家来、あるいは馬に関連する人物。

鬼鹿毛(おにかげ)
猛り狂う荒馬。人を食らうとも言われる。横山が小栗を殺すために用意した。

【あらすじ】
1. 鎌倉の猿楽と横山の陰謀
時は室町時代、将軍の弟・政知公が鎌倉に下向していた頃。観世音阿弥とその子・又三郎を招いての猿楽(能)の会が催される。接待役の老臣・横山左衛門は、婿である小栗判官を憎み、斯波為光を取り立てようとしていた。

2. 鬼鹿毛の罠
横山は、誰も乗りこなせない人食いの荒馬「鬼鹿毛(おにかげ)」を小栗に引き合わせ、これに乗せて殺そうと企む。しかし、小栗はその優れた武芸と馬術(および「無佐志鐙」の力や神仏の加護)により、見事に鬼鹿毛を乗りこなしてしまう

3. 夜討ちと脱出
計略が失敗した横山は、今度は毒酒や夜討ちによって小栗を殺そうとする。小栗の一行は危機に陥るが、家臣の大岸や三郎たちが奮戦し、主君を守ろうとする。乱戦の中、小栗たちはなんとかその場を切り抜ける(あるいは落ち延びる)展開となる。

実際の台本のセリフから抜粋

イントロは悪役のセリフ
南無(なむ)や正八幡(しょうはちまん)、大菩薩(だいぼさつ)。
「鬼鹿毛(おにかげ)、耳を伏せ、尾を垂(た)れて、
猫の如くになりにける。」

「上の仰(おおせ)を鼻にかけ、生得(しょうとく)利口にして」
「へつらへるを悦び、直(す)なるを嫌い」
「斯波(しば)の爲光(ためみつ)を贔屓(ひいき)」
「小栗は婿(むこ)ながら憎み。」
度々の惡言(あくげん)を聞かぬ顔して居給ひしが、腹に据えかね」
「度々の惡言を聞かぬ顔して居給ひしが」
「言葉は賞(ほ)むるに似たれども、響きは嘲(あざけ)る松風の」
「散らす言の葉(ことのは)毒を含み。」
「座の白(しら)むをも構はず、憎み笑ふぞ恐ろしき」

「就中(なかんずく)今日は観世音阿弥、その子又三郎を召され。猿楽(さるがく)の御見物」

「豊秋津(とよあきつ)、和光同塵(わこうどうじん)の教へにて、利生(りしょう)を施す神風(かみかぜ)や。」
「案内(あない)して行く奥の厩(うまや)。」
「鉄(くろがね)の鎖(くさり)にて繋ぎ止めたる其馬(そのうま)は、
名に負ふ鬼鹿毛(おにかげ)、猛(たけ)り狂ふて。」
「近付く者をも喰(くら)ふべき、畜生心(ちくしょうごころ)も荒ら荒らしく、
見るも恐ろしき鬼馬(きば)なり」


「横山、詞(ことば)は殊勝(しゅしょう)に申せども、
腹には毒を含む古狸(ふるだぬき)。
乗らば忽(たちま)ち振(ふ)り落とし、
喰(く)い殺させんとの謀計(はかりごと)」

サア、鬼鹿毛は曲者(くせもの)乗せじと、
前足(まえあし)高く躍(おど)り上り、後足(あとあし)蹴上げ、
嘶(いなな)き叫びて跳(は)ね廻る」

「鬼鹿毛(おにかげ)、耳を伏せ、尾を垂(た)れて、
猫の如くになりにける。」

是(これ)ぞ、天晴(あっぱ)れ、名人(めいじん)の、
手並みを見せし一節目(ひとふしめ)」

「言ふより早く、鎖(くさり)を解けば、
鬼鹿毛は放(はな)れ駒(ごま)、
矢(や)の如く庭中(ていちゅう)を駆け巡り、
砂煙(すなけむり)立てて暴れ廻る。
石灯籠(いしどうろう)を蹴倒(けたお)し、
松の枝を喰(く)い千切(ちぎ)り、
其(その)有様(ありさま)、阿修羅(あしゅら)の如し

「取逃(とりにが)し、如く……喜び、突留(つきとめ)……。」
「取逃(とりにが)し、如く……喜び、突留(つきとめ)……。」

「是(これ)ぞ、鬼鹿毛(おにかげ)無佐志鐙(むさしあぶみ)」
「アア、恐ろしや、恐ろしや。
是(これ)は馬にはあらず、雷神(らいじん)の化身(けしん)か、
はたまた地獄(じごく)の羅刹(らせつ)か。
近寄る者は忽(たちま)ち喰(く)らわれ、
触るる者は微塵(みじん)に砕かる。
如何(いか)なる名馬(めいば)なりとても、
是(これ)に乗るべき人は、日本(ひのもと)には有るまじき」
南無(なむ)や正八幡(しょうはちまん)、大菩薩(だいぼさつ)。

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