

てくてくと、回り込むように少女を確かめた
小麦色の肌の少女は
夕映えによって火照っているようにも見える
上空から想像していたのとは異なる
あどけない幼げな顔立ちである
その何とも無垢な瞳は
ただひたすらに
沈む太陽の姿だけを映しているようであった
死の森に相変わらず聳える一本木
前触れもなくある日少女がひっそりと
大木に腰掛けてにっこり微笑んでいた
まるで生の消えた森全体がどよめいたようだ
僕はこの平和を忘れない
車椅子の音があの少女の来る合図
漏れ出てしまう情けないこの声も崇めたりして掲げたい
やつれた少女は血みどろの僕と意気投合
耳を傾ける強く語りかける意志の口調
ただ生を感じる
人嫌いを謳った僕は至極単純
少女は寒くもないのに日に日に着込む何重にも
その不調をひどく案ずる
伝わるはずのない言葉を重ねる
少女は自己中の言葉を拾う
おかげで僕は気負うこともなく今日を憩う
僕はただただ過去に起こった虐めを病んだ
少女は優しく心の千切れを編んだ
刻むはずだった浄土の轍は存在せず
ここには少女の形をしたカラスがいた
黄泉じゃ聞けなかった
Crowからとった「くぅちゃん」の呼び名
またその声を欲しがる
そしてこの地へまた降り立つ
カラスの身を得て閉じた輪廻
僕はくぅちゃんどまりで所詮は人間
どうにもカラスにはなりきれない
人としての生を断ち切れない
「肩だけでもくっつけていいですか?」
貴方へ目を向け頷く
昨日の雨で羽はまだ生乾き
なぁカラス、この温かみに浸ろう
片側に灯る体温に高らかに鳴こう
一人の少年と一羽のカラスが寄り添っていると見えるに違いない
この光景に既視感を抱く
パソコンに残っている数章のファイル
あの頃の僕は現実以上に空想を愛す
数えきれない死亡者数
背に負う覚悟もなく重ねた試行錯誤
まだ僕はその運命の上だ
僕は今手掛け始めた生の学問に『私としての自己論』と名前を付けた
少女は毎日遺書を書く
そこでは皆が見事なる程二度も咲く
過去の僕など罪に消す
少女は物語の世界に足を踏み入れず
原稿用紙越しに覗き込む創造主
住人の叫びに応答する
僕はこの現実と混同する
そこでは必然的に訪れる「幸せ」
確かに僕は貴方の隣でそこに居合わせ
衝動に吹くカラスの肉体を通して願うは
貴方の世界の登場人物でありたかった
じゃないと命は尽きるよ
主人公でなくても愛してくれるからそれでよかった
今や無尽蔵に感じるこの命に
燃やす僕の火
落陽に溶け込むようまた啼く飛ぶ鳥
「もし約束の日に来なかったら…」なんて
僕は夜中の片隅でただ怖がった
貴方の胸元で癒されつつ、僕は只管に哲学に耽っていた
少女がここに現れた、最後の日の記憶であった
- Lyricist
NOMADE theZuicidalCrow
- Composer
STVRBOY
- Recording Engineer
Ryuta Toduka
- Mixing Engineer
Ryuta Toduka
- Mastering Engineer
Ryuta Toduka
- Rap
NOMADE theZuicidalCrow

Listen to Chapter 5 Author by NOMADE theZuicidalCrow
Streaming / Download
- 1
Chapter 1 the Song of the Boy
NOMADE theZuicidalCrow
- 2
Chapter 2 the Song of the Crow
NOMADE theZuicidalCrow
- 3
Chapter 3 Resonance
NOMADE theZuicidalCrow
- 4
Chapter 4 Worth
NOMADE theZuicidalCrow
- ⚫︎
Chapter 5 Author
NOMADE theZuicidalCrow
- 6
Chapter 6 Soar
NOMADE theZuicidalCrow
少年は本当は生きたかった、だが欠乏が充足されず死を選んだ。カラスは本当に死にたかった、欠乏を充足させる意志が絶たれた空なる殻。
少年の意志は残り、カラスは衝動に朽ちて散った。少年の精神はカラスの肉体に宿り、その脳をくだらぬ自分の軌跡が上書きする絶望に打ちひしがれる毎日。
ある日誰も居なくなったカラスの森に少女の形をしたカラスがいた。彼女は瞳に映る穢いカラスを見て「誰よりも人間みたい」、と呆れたように笑っていた。
Artist Profile
NOMADE theZuicidalCrow
2018~2020年までカナダにてラップ活動。 2025年に日本にて本格的にラップ活動開始。 エモラップをベースとしたポエトリーラップを手掛ける。
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